シンプル&ミニマムで、洞窟物語と比べるとガッカリ感が否めないけど、それでもなお非常に良いゲームだし、何より「好きだ」と声高らかに叫びたいゲームですね。
ゲームデザイン的に気付いたことはこちらの記事にまとめました。
洞窟物語作者の新作『ケロブラスター』を遊んで気付いたこと(Togetter)
今回は世界設定と物語の解釈について語っていこうと思います。盛大なネタバレになるのでTwitterで流すのはアレですからね。もちろんネタバレ全開なので最低1周してからどうぞ。
なお、物語の考察とかさっぱり苦手な私です。盛大なミスリードもあり得ますしたぶんあります。「それ違うだろ」「私はこう思う」とかあればコメントとかに書いていただけるとお互い幸せになれるかも。
話を構成する要素の解釈
黒いヤツら=バグ
黒いヤツら。これの正体はラスボスの姿と攻撃方法を見れば一目瞭然。二進数とERRORの文字。コンピューターのエラーなのでそれはつまりバグのことだ。ラスボスは黒いヤツのなれの果てなので、「黒いヤツ=バグ」の可能性が高い。
また、同僚の黒ネコは「あちこちで見かける」「転送装置が暴走する原因」「負の遺産」などと証言している。「負の遺産」は若干ニュアンスが違う気はするけども、大筋がバグを表していると言える。
別売のサントラを見ると一部の曲名が「ハードコーディング」「仕様変更」など、プログラミングに関するネガティブワードになっていたりもする。
このへんの材料があるので「黒いヤツ=バグ」で間違いないだろう。
カエル君=デバッガー
カエル君の仕事は黒いヤツを掃除すること。つまりバグを掃除する「デバッガー」の役割だ。前半ステージは「ゲーム内の世界」
だから、順調にお仕事をしていた前半ステージはゲーム内の世界だと思われる。ステージ5の「ヘキチ高原」までは少なくともそのはずだ。キャット&フロッグ社があるのは現実世界で、カエル君はそこから転送装置を使ってゲーム内にワープする。ショップに入るときもワープしているので、アイテムを購入するためにいったん現実世界に戻っていると思われる。
そしてこれが面白い。ワープ装置やショップの周辺はマップチップのパレットがバグっている。転送装置から何かが漏れてゲームに影響を与えているように見える。
マップチップの色異常はそこらじゅうにあるような印象があるけど、実はステージ5までは転送装置とショップと、あとクロブラスターの隠し場所付近だけだ。ステージ6以降ではステージ6のショップ内以外はマップチップ異常は存在しない(はず…)。
つまり、おそらくマップチップ異常の有無が、現実世界とゲーム世界を区別する記号になってるんだ。
カエル君が勤務する会社=ゲーム会社
キャット&フロッグ社。社員は「社長」「ピンク」「黒ネコ」「カエル君」の4人。(名前は便宜上つけました)ピンクは体験版の『PINK HOUR』を見る限り事務員(OL?)でよさそう。実務はカエル君が現場、黒ネコが社内で転送装置の管理と指示出し&バックアップって感じか。社長は上司的な役割。
この会社は、ゲーム会社のメタファーということで良いのかな。ゲームの開発終盤、あとはバグを一通りとってリリースという状況で、社長は早くバグ取れと騒ぎあっぷあっぷ状態。カエル君はデバッガーとして淡々と仕事。じゃあ黒ネコはどういう役割だろうか。
黒ネコは?
突然だが、敵を倒したときのやられ方が2通りあることに気付いただろうか。普通の敵っぽいやつは普通のやられ方だけど、「黒いヤツ」っぽい敵はワープしていくように消えていく。効果音もワープの音だ。つまり、カエル君は銃で黒いヤツを破壊してるのではなく、現実世界に転送しているのだと解釈できる。現実世界に転送された黒いヤツは誰が処理をする? そう、転送装置を管理している黒ネコだ。つまり、デバッガーのカエル君が見つけたバグを、確認&修正するのが黒ネコ。黒ネコはつまりプログラマ的な存在なのでは、…と解釈すれば実にしっくりくる。
さらに突然だが、ケロブラスターの配信開始からまもなくして、制作者の天谷氏がこんな記事を公開した。
洞窟物語ブラッシュアップ対話記録(1年分)
これは、洞窟物語制作中の天谷氏(=Pixel氏)とテストプレイヤー達のやりとりの記録だ。数人のテストプレイヤーが、バグや感想、アイデアなどを報告し、それを受けて天谷氏が調整をし、ゲームの完成度を高めていく。その作業はものすごく楽しかったんだな、という雰囲気がこの記録から強く伝わってくる。
だから自分はこれを読んだとき、「黒ネコとカエル君の関係が正にこれだ!」と感じたのだ。
だからこのケロブラスターは、天谷氏がゲーム制作を通じて感じたことを表現した物語なのだと感じた。バグに対しては相当苦労させられたんだな、という感覚はゲームから強く伝わってくる。(ここにあまり踏み込むと「作者の気持ちを答えなさい」みたいな話になってしまうので割愛)
カエル君が倒れるたびに毎回病院でずっと待っててくれる黒ネコ。 |
一番の謎、社長
一人だけ謎言語を使っている、次第に膨らんでいく、黒いヤツをなぜか大切に飼っている、という意味不明だらけの社長。でも『PINK HOUR』ではわりとやさしい一面も見せたりしている。この人だけ謎言語を使うのは、上司にありがちな「ここはギュギューンのバーンで!」みたいな意味不明な指示のメタファーなのかなと解釈。だんだん大きくなっていくのは、開発終盤で頭がパンクしそうになっていることの表現で、ハエは風呂に入る時間がないことを表しているのかも。
黒いヤツを大切にするのは「ゲームを面白くするバグもある」というコトなのかな、と思ったり。有名なエピソードで「スト2のキャンセル技はバグが元」という話があったりするし、自分の思い出では、ポケモン赤緑のバグでミュウを生成したり、ゼルダ夢を見る島のワープバグで裏世界に入ったりしたのは相当楽しかった。だから社長はあの黒いヤツを「良いバグ」だと思って大切にしていたのかもしれない。
天谷氏は過去に猫の絵を大量に描くくらいには猫大好きな人みたいだけど、黒ネコと、あと社長が猫なのは、この2人が天谷氏とわりと似た境遇のキャラクターだからなのかな、と想像したりした。天谷氏のポジティブ面が黒ネコで、ネガティブ面が社長…、みたいな。もちろん想像ですが。
ストーリーの解釈
ここからはストーリーの解釈。例のごとく自分なりの解釈ですので、正しさは保証しかねます。ステージ1~ステージ5
ゲーム前半は順調にお仕事が進む。その裏で社長がどんどんデカくなる。そして、ステージ5「ヘキチ高原」のボス撃破後、カエル君は突然謎の力によって下水のような場所に飛ばされてしまう。ステージ6「トレイン駅」
このステージのショップは、周囲のマップチップが壊れていない。つまりここは現実世界だということだ。このショップに入ると、色やBGMがバグってる。
転送装置は現実世界とゲーム世界を行き来するものなので、このショップはゲームの世界。マップチップがおかしくなってるのがその証拠。ショップへの転送装置が現実にあることがそもそもおかしいので盛大にバグってる。
現実世界なのに黒いヤツもうようよいるしショップへの転送装置もあるしで、つまりステージ6以降は、現実とゲームがごちゃ混ぜになっているバグった世界になってるということなんだと思う。
そしてこのあたりのステージは妙に現実社会モチーフのモノが多い。夜の電車(終電っぽい)や、「時間に追われてる」を体現する時計ボス、プッチンプリン型のボスは夜食でしょうか。あと、ステージ4の「ホワイト研究所」が黒くなってるのもブラック企業的なメタファーかな。
現実とゲームがごっちゃになった世界で、時間に追われ夜食と終電。ブラック。ゲーム開発終盤の現場ってまさにコレだよねえ。
ステージ7「帰社」
リリース直前の最終チェックと言わんばかりにありとあらゆるステージの敵が順不同で大量に出現。ものすごい大詰め感。ゲーム的にも終盤です。辛さを通り越してハイになってきちゃった感が表現されてるとも解釈できるかも。結局それで黒いヤツが再び大量発生、元に戻りつつあった社長、結局それのせいであっぷあっぷ状態に逆戻り。実は社長が大切に守ってた「良いバグ」は、実は「ヘタに直そうとすると様々な要素に影響が出る危険なバグ」だったのか。それともバグ利用で遊びすぎたせいでゲームがおかしくなってしまったか。
そして最終的に、社長が飼ってた黒いヤツが、最終的にモノリスみたいになって、みんなを取り込んで暴走してしまう。生き残ったカエル君はなんとかそいつをやっつけるんだけど、町中に広がった無数のバグを全部直すなんて不可能だし、他の従業員は全員ダウン。残念ながらカエル君はバグを見つけるだけで修正なんてできません。
マスターアップも間近だし、もうどうしようもない!
じゃあ、こうするしかないじゃない!
現状残ってる全ての「バグ」は…
全て「仕様」とします!!
こうしてゲームは無事完成ということになりました。めでたしめでたし。
…まあ、捕捉しておくと、黒ネコ君がエンディングでこう言ってるんですよ。
「これまで問題のタネだった『負の遺産』に、ついに見切りを付けることができたわけだ。」→見切りを付ける、つまり見限るということなので、この解釈はあながち間違ではないと思います。
「実際にトラブルの報告も減ってる」→そりゃ全部仕様ですからね!
そして2週目へ…
これが気になる1枚。2週目突入時にカエル君が黄色く変えられてますが、これってパレットの色異常…だよね? 右の人も一瞬色がおかしくなってるし、つまりこれって…どういうこと…なの?
渡辺 修司 中村 彰憲
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クリアして、モヤモヤしていたので、
返信削除納得できる解釈にスッキリしました。
京都の向うに、京都タワーと北山を眺められる
ゲーム会社は一つしかありません・・・・。
スプライト・効果音・BGM仕様などのファミコンそのもので、
ファミコンへの敬意や愛を感じました。
天谷氏が「解釈として一環した答えがあるわけではない」という趣旨のコメントをした記事があったので、あくまでもひとつの個人的解釈としてどうぞ。
削除キャット&フロッグ社のあるビルが任天堂という説は他の方からも指摘ありましたね。天谷氏自身京都の人みたいですし、確かに可能性が高い。そのビルの屋上でゲーム制作。任天堂に何か特別な思いがありそうな感じしますねえ。