『俺屍』の桝田省治氏が教えてくれた逆算型アイデア発想法がスゴイ

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ドワンゴ主催の「自作ゲームフェス勉強会」に行ってきた。
ニコニコ自作ゲームフェスに向けて、ゲーム制作者が勉強&交流をするためのイベントだ。ドワンゴ主催。ドワンゴ社内で開催。うおお。

Twitterのハッシュタグも作られて、実況してる方もいたりして、うちのTLでは「そんなの開催されてたのか」「行きたかった」と言う人も多かった。

ちなみに自分はどこでこの存在を知ったかというと、この記事だ。
ニコニコ自作ゲームフェス4が開催!大賞賞金は30万円、クリエイター桝田省治氏による勉強会などのサポート企画もあり
http://www.moguragames.com/entry/jisakugamefes4/
もぐらゲームスさまの記事。このほかにも濃い記事がたくさん詰まったすばらしいサイトだし、特にニカイドウレンジ氏の記事が非常に面白いので、いますぐRSSリーダーに登録するべきだ。(わざとらしい)

自分はもともと『俺屍』の作者、桝田省治氏の講義が聴ける、というふれこみだったのでそういうモノとして参加登録したけども、実はそっちよりも参加者同士の交流がメインだった。そういう場は苦手なのだけど、一応頑張って名刺とか投げておいた。

で、「このイベントのレポを書け」と言われたので書いた次第であります。桝田氏以外の話も書こうとしたんだけど、文字数の都合で全削除です。(気が向いたら後編記事も書くかも)

講義内容はこっちの記事にほぼ全文載ってる。
自作ゲームフェス勉強会 8月23日 感想まとめ
http://togetter.com/li/710257
ので、この記事では自分が聴いてて気付いた事をメインに書きます。あくまで自分の思ったことなので、桝田氏の意図と異なる可能性があるので超注意。それではどうぞ。

桝田氏本人の印象

失礼ながら、「普通のオッサン」という印象。かなり穏やかな雰囲気で、白髪まじりで、何しても怒ったりしないんだろうな、という感じだった。あとアロハシャツ着てた。

元々広告代理店でマーケティング関係の仕事をしていたらしい。その後ゲーム制作を始めたが、初期の頃は広告からパッケージまで自身でデザインしていたそうな。

講義の内容は「事前に参加者から質問を受け付けて、それに合わせて話す内容を考える」という形式。桝田氏は、講義前に質問の傾向を分析していたのと、講義の最後に「桝田氏から我々への質問」をしていたのが印象的だった。単なる講演なのに、桝田氏自身がそこから何かを得ようとしてる姿勢を感じた。54歳なんですよこの人。

俺屍2が叩かれてる件については、「ある程度は凹むけど、仕事だからね!」とあっけらかんと答えていた。また「叩かれて落ち込むのではなく、自分のバカさ加減に気付いて落ち込む。勉強になりました、というスタンス」とも言っていた。むしろポジティブに捉えてるような印象だった。

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ゲームをプレイすることはほとんどないそうだ。「自分がゲーム上手くなってしまったら、それが基準になってしまうから」。桃太郎伝説の戦闘システムを作れと言われて、参考用にドラクエを買ったのが初ゲームだと言うくらいだから、本当にゲーム触っていないんだろうな。

まおゆう書籍化の際に桝田氏が決めたコンセプト

んで、本題となる桝田氏の講義内容についての話。

桝田氏の話で一番感心したのは、ユーザーがどういう形で作品に触れるのかを具体的に考えているという点だ。「その作品に触れるのは、誰? どんな状況で? どのくらいの時間?」という風に、ハッキリと見えるまでイメージをしている。

桝田氏は『まおゆう魔王勇者』の総合プロデューサーでもあるが、まおゆうを書籍化する際の話を聴けた。小説を書籍化する際、「本のサイズは?」「装丁は?」「紙はどれを使う?」「表紙の絵師は?」「価格は?」など様々に決めるべき項目がある。

それらを決める前に、まず「まおゆうの本がどういう存在になるか」を考えたという。そして桝田氏は「中学校の図書館に片隅にあり、10年後でもまだ借りる人がいるような存在」という具体的なイメージを固めたそうな。

すると決めるべき事が半自動的に決まっていく。
  • 本のサイズは? → 図書館に置きやすいの大型の本
  • 装丁は? → 図書館に置かれるようなハードカバー
  • 紙は? → 10年後でも黄ばみにくいしっかりとした紙
  • 表紙の絵師は? → 10年後も陳腐化しない絵柄の人
そうなると本の価格が1000円越えとなってしまい、中学生が買うには高すぎる。が、そこは問題ない。図書館はいま金が余ってる。中学生に「まおゆう入荷してよ」と言わせれば入荷してくれる可能性が高い、と。

また、まおゆうはファンタジー世界での政治の話が主な内容だが、「現実世界の史実ではどうだったか」というコラムを欄外に載せたという。そうすれば社会科の先生が推薦してくれて、さらに図書館に置かれやすくなるとのこと。

桝田氏のこのアイデア発想法に、自分は目から鱗が落ちまくった。

「具体的なゴール」を決めたら「具体的なルート」が自動的に決まる

桝田氏の話をかみ砕くと、「紙の種類を決めること」というのは目的ではなく、あくまでそれは「手段」でしかない。

「10年経っても読み続けられている本」を作る事が目的で、そのためには「10年経っても劣化しない本」が必要。そして、そのために「10年経っても劣化しない丈夫な紙」が必要なだけなんだ。

観光で例えてみる

「東京を観光したい」というのを目的として決めたらどうなるか? これだけでは漠然としすぎていて、どこへ行くかも何を見るかも、どの駅に降りるべきかすらも決められない。

「スカイツリーに登りたい」ならどうか。降りる駅と行くところまでは確定するが、いつ登るかなどが決められないし、まだ不十分。

ならば…、

「スカイツリーの展望台に登って、オシャレなレストランで東京の夜景を眺めながら彼女と乾杯したい」までイメージできればどうか。乗り換えルートは? 降車駅は? 時間は? 昼はどこ行く? 着て行く服は? レストラン予約しとく? 予算は? 彼女の予定は? 彼女は和食好きか? そもそも彼女は実在するか? 一瞬で数多くの考えるべき点が思い浮かび、それが思い浮かんだ端から半自動的に決まっていく。

最初に「具体的なゴール地点」を決めれば、そこにたどり着くまでの「具体的な最適ルート」も自動的に決まる。カーナビではごく当たり前の話だけど、アイデアという目に見えないものでもまったく同じ、ということだ。

ゲーム制作でも「ユーザー体験」を先に考える

「RPGのパラメータを決めるのが大変」という質問があった。桝田氏は「数値から入るのが間違いだ」と答えていた。話を聞いていくと、これも同じようなロジック。「結果」であるユーザー体験、つまり「テレビの前に座ってる人に、何を思わせたいか」を考えて、そこから逆算するのだ。という話。

「魔法の強さ」の決め方

「新しく入って来た仲間が最初貧弱だったけど、途中でめちゃ強い魔法覚えて大活躍するようになったら、キャラが立つじゃん?」というユーザー体験を桝田氏は例として挙げた。

そういうユーザー体験を先に考えれば、あとは半自動で決まっていく。その魔法はどのタイミングで、どのくらいの強さのものを覚えるか?

その魔法を印象づけるためにエフェクトや効果音は他より派手にしてやろう。消費MPが高すぎると結局使いづらい魔法になるから、抑えめにしておこう。

魔法を覚える際に、そのキャラが人間的に一皮剥けるようなイベントを挿入しても面白いかも? と考えればストーリーだって芋づる式に決まっていく。これも具体的なゴールが決まっているからこそだ。

「敵の強さ」の決め方

「自分が強いと思っていたら、新しいダンジョンで敵が強すぎて絶望したら面白いだろ?」という例もあった。

今まで敵を1~2発で倒せてたのに、そのダンジョンでは6回殴らなきゃ倒せないとしたら強いと感じて貰えるか? 一撃で勇者の体力を5割も削るようなダメージを与えてきたら絶望感を感じて貰えるか?

じゃあ敵が6発で死ぬためには敵のHPはいくつにしたらいいか? このときの勇者の想定攻撃力はいくつか? そのときの勇者の想定HPはいくつか? HPを一撃で5割削るには敵の攻撃力はいくつ必要か?

…と考えていけば、数値までもが確定してしまう。

ちなみにこのあたりの話は、こっちの記事に詳しく書かれているはず。(自分はまだ読めてない。時間作って読みたい)
戦闘計算式初級講座
http://togetter.com/li/15107

桝田氏は「モノ」ではなく「人」のことを考えている

「コンセプトから次々とアイデアが湧いてくるのは良いコンセプトだ」とよく言われる。今回の話も、これに該当するだろう。

が、桝田氏は講演でこう言っていた。「他人にコンセプトを話したときにその相手が4つも5つもアイデアを返してくれるようなら、それこそが普遍的で優れたネタだ」(この言葉自体がものすごく具体的だ!)

自分の中で広げていくだけなら簡単だけど、コンセプトを相手に話すだけで相手に良さが伝わるなら、それは製品化しても、同じくユーザーに面白さが伝わりやすい、ということなんだろう。

また、桝田氏は質疑応答の中で、ゴールを簡単に具体化する方法として「身近な人のために作る」とも言っていた。桝田氏は現在自分の嫁さんに向けてのゲームを開発中だそうだが、確かにこれ以上とないくらい具体的なゴールだ。

桝田氏の新作、今から発表が楽しみだ。

蛇足

この記事自体もともと「自作ゲームフェス勉強会」のレポートとして、起こったことを最初から最後まで時系列順書いていく予定だったけど、桝田氏の講義メモを読み返している最中に「それは本当のゴールじゃない」と感じて一旦全部消した。

桝田氏の考え方に乗っ取って、この記事のゴールを定めた上で改めて書き直してみた。そのゴールは「桝田氏のアイデア発想法を、多くの人に分かりやすく伝えたい」だ。(そのさらに先の目的もあるけど、言わない)

だから自作ゲームフェス勉強会で体験してきたそれ以外のことは出来るかぎり割愛したし、伝わりやすいように例えを加える必要性を感じた。これが読み手にとって優れた記事になっていたとしたら、自分は勉強会を通じて「何かを得た」ことの証明になるかもしれない。


あ、ちなみに最初のまおゆうの話で実際に制作されたのがこの本ね。
まおゆう魔王勇者 1「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」
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表紙イラストの水玉螢之丞氏は「ファミ通」がまだ「ファミコン通信」だった時代に連載をしていた人だ。20年前の当時から流行に流されない絵柄の持ち主だったので、この人なら10年経っても全然大丈夫そうだ。
表紙イラストの絵師は、正しくはtoi8氏でした。toi8氏は2002年イラストレーター業を始めており、既に10年以上戦ってきている絵師の一人だ。

また、桝田氏の著書『ゲームデザイン脳』もオススメ。
ゲームデザイン脳 ―桝田省治の発想とワザ― (ThinkMap)
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桝田氏の考え方が良く分かる一冊になってる。『リンダキューブ』『俺屍』がどのように考え出されたかも詳しく書いてあるし、改めて読み返してみたら、この記事をそのまま詳しくした内容も多く含まれていたよ。この記事に興味持った方は読んで後悔することはないはず。

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