『かぐや姫の物語』はひきこもりの娘と親の物語である

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ジブリの『かぐや姫の物語』が金曜ロードショーで放映されたので、映画館で観たときに途中まで書いた記事を急遽完成させて公開する次第であります。

映画館で観たときの感想は「恐怖」「狂気」「気持ち悪い」という印象が強くあった。中盤あたりから常時眉間にしわを寄せながら観ていた。

結論から言えば、私はかぐや姫の物語を、「ひきこもりの物語」として解釈した。

娘の気持ちを考えず暴走する父(おじいさん)と、何も行動せず見ているだけの母(おばあさん)に育てられた娘が、ひきこもりとなり生活し、精神を病む物語だ。

以下ネタバレの嵐。

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ストーリーの解釈

田舎では活発な生活をしていて、すくすくと成長した。友達もいた。このときが人生のピーク。

都に引っ越してからは父に強制され家の中で生活することに。家でダラダラと生活した結果、見事なひきこもりに。ある日無理して参加したパーティで散々バカにされ大ショック。

それが原因で精神的に不安定になり、本格的なひきこもり状態に。理解してくれない父が嫌だが、自立して生活する能力も意思もない。逃げ出す妄想をするだけだ。鬱っぽい状態となり、家で裁縫や庭いじりなど内向的な趣味で時間を潰しつつ日々を送る。(これ以降成長が止まるのも、引きこもりで精神年齢が成長しないことを表しているのだろう)

しかし顔がいいため、男性は次々と寄ってくる。チヤホヤされ有頂天のかぐや姫。とっかえひっかえ付き合うが、けっきょく顔と身体目当てだと分かり泣き崩れる。(その際悲劇の女ぶって自分に酔ってる)

さらに、アゴに襲われたショックがきっかけで「月へ帰らないと」「月へ帰りたくない」「月へ帰りたい」などと訳の分からないことを言い始める。精神分裂症(統合失調症)かもしれない。

そんな状態のまま、幼なじみのイケメンに溺れる。抱き合って空を飛ぶのはどう考えてもセックスのメタファーだ。身分違いの恋+ちょい悪男+不倫+一夜限りの関係 で色々アレ。(ラストカットで月に赤ん坊の絵が映し出されるのは、子供を身ごもった事を表している、とも受け取れる)

どうにも手が付けられなくなった両親は、精神病院(=月)へ入れることを決意する。

これがかぐや姫の人生。ひきこもりなったのは親のせいではあるものの、自ら自立しようと努力することはなく、結局は身分を利用したワガママ放題。(羽根つきなどで遊んでいただけ、庭いじりで現実逃避してただけ。桜を見に行くときも結局召使い同伴) そのまま時間だけが過ぎてゆき、どんどん深みにはまっていく。

そして、そんなかぐや姫がひきこもりになった元凶が、おじいさんとおばあさんだ。

姫の気持ちを考えないおじいさん
何せず見ているだけのおばあさん

おじいさん。最初にかぐや姫を見た時点で「天がワシに授けてくださったに違いないぞ」と思い込みが激しい。ずっと娘の気持ちを一切考えず「姫の幸せのために」と言いつつも、娘のことを一切見ずに、狭い価値観を押しつけ続ける。

一方、おばあさん娘の気持ちも状況も十分分かっているのに何も手を出さない。口はちょっと出したけど「とりあえず言ってみた」程度。 その場その場を取り繕う程度のことしかしない。問題があると分かっているのに、何もしなかった。最大の悪だ。

最後の最後には、おばあさんは娘を故郷に連れて行ってあげた(行動した)し、おじいさんは娘の気持ちにやっと耳を傾けて、月へ帰らなくても良いように死力を尽くした。けど、それに気付いたときにはすでに取り返しが付かない状況になっていた。

健康だった娘が病み始めたのは都で生活するようになってから。それを強制したのはおじいさんだ。全ての元凶はおじいさんである。それを止められる可能性があった唯一の人間なのに、止めなかったのがおばあさんである。

ただひたすらにつらい物語

娘のことを考えず暴走する父。
何もせずただ見ているだけの母。
現状に甘えて何も努力しないかぐや姫。

どんどん状況が悪化するが、家族全員がダメ人間で、打開することが出来ないまま終局を迎える。ただそれだけの救いのない物語だったと、自分は感じた。

物語中、救いのチャンスは何度もあったはず。父が娘の気持ちに気付いていれば。母が行動していれば。娘が勇気を出せていれば。可能性は十分にあったからこそ、だからこそ辛い。

かぐや姫は最後、捨丸に「捨丸兄ちゃんとなら幸せになれたかもしれない。今それが分かった」と言っている。しかしこれも「たられば」の話であり「時すでに遅し」なのである。


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1 件のコメント :

  1. うーん…どうでしょうか
    救いがない話であったり誰かが何かしていればよかった話であったり
    捨丸との飛行がメタファーであったりひきこもってから精神的に成長していないから姿が成長していないという点はその通りだと思いますが。
    引きこもりというと自分から何かしらの挫折や恐怖があって自分内部の問題があって引きこもるものだと思います。
    父親に言われて引きこもりをする人間が今の時代にいるでしょうか?
    どうにもつけられなくなったから月(精神病棟)に入れたといっていますが精神がおかしいひとが自分から月の話を言い出すでしょうか?しかも両親が自らの意思でかぐや姫を月に入れると宣言したところは一度もないはずです。あの世界の誰もが月に行くのを阻止しようとしているのに精神病棟というのはかなり早計な推定かと。もしかぐや姫だけが行きたくなくて他のものみんなが無理矢理いれるならわかりますが。
    個人的に筆者さん自らの何かしら気に入らないことがあったのでしょうが、自分の中の経験則に無理矢理照らし合わせて強引な解釈をするのは物語考察ではなくただの感想では?
    それに高畑勲長年かけて引きこもりの物語を作る意図はありますか?引きこもりが社会的に問題になってその問題提起のために作ったとも?まさかそんなわけないですよね。意図せず引きこもりの物語になってしまったと主張されるのはそれはなぜ?高畑勲には引きこもりとの因縁とかあるんでしょうか?そこまで考えて初めて主張できる事柄だと思います。

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